286 将来計画及び運営方針
5-4 共同研究の見直しについて
大学共同利用機関・分子科学研究所の使命である共同研究の実態は研究所創設期とはかなり変化している。つまり, 研究設備の面では大学の環境がかなり改善され,分子研の設備が見劣りするような場合も出てきている。よって,設 備にとらわれず,人を中心とする新たな視点でも共同研究を捉え直す必要がある。このように現在の共同研究の在り 方をいろいろな面から検討することは,つまるところ研究所そのものの存在意義を見直すことにつながる。現在,研 究所として将来の分子研の在り方を議論している最中であり,そのひとつの可能性として高等学術研究機関を目指す べきであるという考えが出されている。共同研究を見直す際,高等学術研究機関構想の中で共同研究をどう捉えるか という大きな問題設定も重要であるが,今期の共同研究専門委員会では,まず現在の共同研究の実態を調べ,改善す べき点を検討することにした。
5-4-1 問題点の洗い出し
具体的な作業としてワーキンググループを編成し,メンバーの意見を聞きながら問題点を洗い出し,その後,ワー キンググループで意見交換した。メンバーは所内委員の中村宏樹,鈴木俊法,井上克也,小杉信博(まとめ役)と所 外委員の伊藤翼東北大教授,岡田正阪大教授である。問題点として浮かび上がったことは以下の通り。
(1) 所外研究者1名(+同伴者若干名)が所内研究者1名(1グループ)と共同研究するために申請する協力研究, 所内外の複数の研究者が集中的に分子研に集まって行う課題研究,研究会等の実態を調べ,硬直化している部 分について何らかの打開策を打ち出すことが必要である。
(1a) 実態を調べるために,共同研究結果のヒアリングを行うことが必要ではないか。また,共同研究の見直 しと評価は共同研究専門委員会の本来の役目のひとつでもあるので,絶えず議論できる場を委員会に設 定する必要があるのではないか。共同研究専門委員会における所外委員の役目もそのあたりにあるので はないか。
(1b) 協力研究枠でありながら施設利用的になっているものがあるので,本来の協力研究(所内対応教官の研 究の展開にも必須の研究)と区別して実施する仕組みが必要ではないか。
(1c) 新しい共同研究を所内から発信することが重要ではないか。そのためには所内研究者が代表者として申 請できる共同研究枠の設定が重要ではないか。
(1d) 課題研究を強化するための工夫が必要ではないか。研究の展開で共同研究の内容が変化するような自由 度を増やす等。
(1e) 現在の申請締切(前期・後期)の設定では,平均すると実施時期の半年以上前の申請になってしまうた めに,それが硬直化のひとつの原因になっているのではないか。特に,4月に所属変更する場合が多い が,現システムでは4月から共同研究を始めることは不可能で,後期からしか対応できない。臨機応変 な対応ができるシステムにできないか。
(1f) 共同研究がオープンに行われていることをもっと広く知らせるように努力すべきではないか。所外に対 しオープンな姿勢が重要であり,広報活動にも工夫が必要ではないか。
(2) 国際共同研究の拠点形成を目指して,外国人客員部門等を活用した新しい共同研究の枠組が必要ではないか。 (3) 分子科学の将来を支えるいろいろな分野の若手研究者(院生を含む)がもっと積極的に研究所の活動(共同研
究,研究会等)に参画あるいは参加できるように対策を立てるべきではないか。
(4) 今後の共同研究は所外の研究者が分子研に来て行うという一方通行ではなく,分子研の研究者も所外(海外を
将来計画及び運営方針 287 含む)に出かけていって展開するような双方向の共同研究を可能にしなければならないのではないか。分子研 が主導権をもった共同研究を行えるようにすると言う意味で「高等学術研究機関構想」とも合致する。
5-4-2 現時点での改善策
次に,以上の各項目への具体的な施策についてワーキンググループ及び所内委員全員で議論した。現時点で考えら れる案は以下の通りである。ただし,これらはそのまま実現できるものばかりではない。
(1) 現状の共同研究の強化策
(1a) 共同研究専門委員会では,課題研究以外の共同研究も1,2件(例えば,長期間,継続して行っている協力研 究)選択し,申請代表者(あるいは所内対応教官)に成果報告してもらうことで実態を把握しながら,共同研 究の見直しと評価を継続して行うものとする。
(1b) 施設長が対応している協力研究や施設の共同利用機器を利用した協力研究については,各施設の活動でもある ので,各施設の運営委員会で申請内容について議論したり,成果を報告したりすべきである。また,このよう な検討の中から,協力研究以外の枠として各施設の裁量で独自の共同研究スタイル(施設利用枠を使ったもの) を各施設で構築していくべきである。検討を要する主たる施設はレーザー及び物質開発研究センターと装置開 発室。
(1c) 所内研究者自身も代表者として申請できる課題研究枠を利用すれば,所内発信の新しい共同研究が提案できる。 このような課題研究の位置づけを徹底し,所内外から課題研究への応募を促す努力が必要である。
(1d) 課題研究においては,構成メンバーの年度途中の変更は旅費配分総額を変えない範囲で認めるようにし,学問 の動きに即した機動性あるものにすべきである。
(1e) ミニ研究会の扱いと同じ要領で,特別の理由がある場合,協力研究に随時受付の枠を認める。ただし,各研究 者あたりの協力研究の総枠規制を越えないものとする。
(1f) 共同研究の報告をもっとオープンにすることが重要で,成果報告も「分子研レターズ」とAnnual Review に掲載 するばかりではなく,もっと広く知らせるように努力すべきである。随時受付が可能であるミニ研究会につい ても所外にオープンにすべきである。
(2) 国際共同研究拠点形成に向けての方策
延べ4人/年の枠のある外国人客員部門の教官採用計画を立てる際に,半年以上の長期滞在という条件(これは,現 在,選考する際の運用上の約束事)を一部で緩和して3ヶ月単位の採用も可能にすると,来日可能な候補者が増加し て国際共同研究を現在以上に活性化することができる(なお,3ヶ月未満の採用計画は客員部門として許可されてい ない)。採用の確実性は国際共同研究を始めるきっかけを作るのに特に重要である。
予定外国人客員教官をメンバーに加えた所外との共同研究を奨励するために課題研究で申請してもらうようにし,共 同研究専門委員会で申請内容を審議してから採用計画のリストに候補者を加えるというようなプロセスをとることが 望ましい。その際,課題研究の申請を後期(6月中旬締切)も認める必要が出てくる。つまり,現在,課題研究の申 請は前期(前年12月中旬締切)だけしか認められておらず,これでは次年度の採用計画の調整に間に合わないため。
288 将来計画及び運営方針 (3) 若手研究者奨励策
若手研究者が最も支援を必要としている。若手研究者が中心になって組織する研究会を奨励する姿勢が必要である。 また,中堅以上の研究者が組織する研究会であっても,その当事者の研究室に属さない若手研究者(院生を含む)の 参加を広く募ることを世話人に義務づけ,そのための旅費枠も適宜,設定する。このような研究会に要請される条件 を公募の段階で明確にすべきである。さらに,直接,所内研究者から所外の院生等に共同研究への参加を呼びかける ことも重要である(博士後期課程の院生は協力研究の申請代表者になることができる)。若手研究者とのチャンネルを 作る方法として,メーリングリストのサーバーを分子研に設置し,若手研究者(各種若手の会メンバーを含む)が自 由に加入脱退できるようにすればよい。
(4) 高等学術研究機関構想への方策(共同研究の観点で)
概算要求項目として数年,要求してきた多国間国際共同研究協力事業を早急に実現し,人を中心とした所内と所外
(海外が主ではあるが)との双方向の共同研究を実現することが強く望まれる。なお,共同研究のための員等旅費枠を 持っている共同利用研究所(直轄研や大学付置研)間ではすでに双方向の共同研究が可能なので,研究所間で行う新 しい共同研究を打ち出して行くべきである。
5-4-3 今後の課題
2000年1月24日開催の共同研究専門委員会で共同研究の見直しについて議論した。上記,問題点の洗い出し,現時 点での改善策の内容には,その際の意見を含めている。さらに,2000年2月7日開催の運営協議員会においても議論 した。これら二つの委員会では所外委員から以下のような今後の課題についての意見をいただいた。引き続き,共同 研究専門委員会,運営協議員会等の場を使って,共同研究を見直し,より実際的かつ有効な施策を考えて行かねばな らない。
・現状の改善ということではなく,分子研の将来構想のビジョンの中で分子研が主導的に行う共同研究の 新しい枠組みを考えることが重要である。
・旧来の共同研究と新しい共同研究のバランスをどうするか,考えなければならない。
・研究系の行う共同研究は人中心になっているので,新しい共同研究に向けていろいろな試みがすぐにで もできるはずである。そのために課題研究があるのではないか。
・施設の行う共同研究も人中心の方向で考えてよいのではないか。
・外国人客員部門ばかりでなく日本人の客員部門をもっと生かした特長ある共同研究を考えるべきではな いか。
以上。